【出版物9】 小林先生 人柄と心地よさ ~調剤漢方薬の本当の話2~

私は、その銀行内で、何度か後ろを振り返ったのだが、その開閉音が繰り返されている割には、お客が店内に数えるほどしかいなかったことに、不思議に思ったりもした。そのうちその自動ドアが閉まっているにもかかわらず、開閉音だけがやたらと鳴り響いていることに気づき、なんか変だと思った私は、正面出入口のその自動ドアに近づいた。なんと、籠に入った九官鳥が、その自動ドアの端に置かれてあったのだ。完璧なまでのその自動ドアの鳴き声に、「なぁ~んだ・・・」と思い、私はその場でクスクスと笑ってしまった。本当に、自動ドアの音そのものの鳴き声だったのだ。いつまでも傍で笑っていると、今度は私の笑い声を真似されないとも限らない。身体が黒くて、くちばしが黄色っぽいその九官鳥は、時折首をかしげて私を見上げていた。時には口を開けて喉を震わせ、足でつかまる2本のバーを、飛び跳ねて行ったり来たりしていた。私はその場を離れて、そして再び受付カウンターに行って、そこのお姉さんに「あの九官鳥、自動ドアの真似しちゃって、なんかすごいですね!」と言ったら、真面目な顔つきだったそのお姉さんは、一遍で満面の笑みに変わり、「そうなんですよぉ~。ドアのところに置いておいたら、いつの間にか真似するようになってしまったんですぅ~・・・」と言っていた。受付のお姉さんは、なんだかとてもうれしそうだった。そのお姉さんの年齢は20歳代ぐらいに見えた。自然な笑顔がすごくきれいだと思った。恐らくあの感じじゃ、女性銀行員たちの間では、ランチにはその話で持ち切りなんだろうな・・・って思った。女性は、こういうタイプの話に花が咲きやすい。

そんな些細な、それこそこういう楽しい話でさえ、話し手の思いに耳を傾けてくれるのが、今回取材をお願いした小林実(こばやしみのる)先生なのだ。小林先生は、薬天堂薬局の薬剤師の先生である。その漢方専門店の店長で、ずっとその道1本で来られた先生だ。カウンセラーの資格もお持ちなのかな・・・というような雰囲気もあり、とても穏やかなさざ波のような先生だと、そんな印象も受けた。

薬天堂に入ると、小林先生は、一角にある透明ガラスで覆われたお部屋の中で、調剤薬を作っておられ、なんだかとても忙しそうだった。「宇宙が今日はゆっくり行きなさい・・・と言っていたのは、この事だったのかもしれないなぁ~・・・」と思った。

(続く)

 カテゴリー : 出版物 | 投稿日 : 2015年12月7日

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