【社会32】 においと記憶力 ~心地よい香り、風のように5~

話題があっちこっちに飛んだが、その後、職場のみんなで休みの日を利用して、遠出したこともあった。人数が多かったこともあり、行った先で食べたい物がみんなバラバラになった。そこで、お食事は現地集合になった。私はパスタ系のお店を選んだ。なぜかそのA氏もパスタ系の同じお店だった。A氏がその時に注文したのは、イカ墨のパスタだった。私は、なんかいやぁ~な予感がした。案の定だった。

黙って食べてくれれば、ありがたかったが、A氏はそのイカ墨パスタを食べながら、しゃべるわ、笑うわで、いつの間にかお歯黒になっていた。前歯がない人は、営業から外されるそうだ。以前に通っていた歯科医が、何かの話の流れでそんなようなことを口にしていた。なんかわかる気がした。だって、さっきまで真っ白だった前歯がいきなり黒くなると、それを見た方は、結構「ドキッ!」とするし、まるで歯が抜けたか、あるいは隙っ歯のようにも見える。A氏のお歯黒を見たその時に、私はわずかながらのショックを経て、あの時の金庫室の臭いが、突然よみがえってしまったのだ。

記憶が小さくなってしまい、私はその時になんのパスタを食べたのか、未だに思い出せないでいる。A氏は話題豊富で、面倒見のいい上司だったが、ただ、あのような臭いを撒き散らしたことで、人の信用を失ってしまうこともあるんだなぁ~・・・と思った。つまり、私はそれ以降、段々A氏を警戒するようになってしまったのだ。職場で顔を合わせても、朝のご挨拶をしないとか、お茶をお入れしないとか、そういうことではなく、例えばお食事に誘われても、参加する回数が大幅に減っていった・・・という意味である。

どういうことなのかを、今、調べてみてわかったのだが、五感の中で嗅覚の情報だけが、記憶を司る海馬(かいば)にダイレクトに運ばれるそうだ。つまり、五感の中で、匂いが一番記憶に残りやすいんだそうだ。なんかわかる気がした。

風の便りで、ふと、わかることがあるように、香りが風のように心地よさを届けてくれることもあるんだよねぇ~・・・。ふと、そんな風にも思った。

(完)

 カテゴリー : 社会 | 投稿日 : 2016年6月8日

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