【植物4】 雄大なお花畑で ~おしょうさんの祈る力、改めて思い知る2~

そうこうしているうちに、S先生(日蓮宗・ご住職)が本堂に入って来られた。ご宝前で、あまりチョロチョロしない方がいいと思い、S先生が本堂に入って来られる気配がすると、私は急いで自分の席に戻ることがしばしばあった。

S先生は「ドンドコ」と、かかとを太鼓のように鳴らして歩くことは、まずない。立ち振る舞いがとてもきれいなので、側で拝見しているだけで癒される。美しいとはそういうことなのだと思う。

そして、そのゆりの花が造花なのかどうかを、S先生にお聞きしてみたところ、意外にも生花だと分かった。

そうこうしているうちに、唱題プラクティスが始まった。ご宝前に向かって正座し、合掌して、目は半眼。その状態で唱えていくのだ。S先生はご宝前で正座され、私はS先生から3メートルぐらい離れた斜め後方で、祈りの体勢に入った。日蓮宗なので、お題目は「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」だ。このお題目を、S先生と一緒に唱えていく。

「そんなの唱えて、何が面白いの?」と思うかもしれないが(思わないかもしれないが)、深い意識の層に入った時に、心地よい幸福感を味わうこともあるのだ。何が起こるか分からない。本当に何が起こるのか分からないのだ。今のその人にとって、本当に必要なことが、その唱題プラクティスの中で起こる。それが唱題プラクティスなのだ。

この日、その唱題プラクティスの最中に起こった不思議な事とは、ご宝前のあの静かなゆりの花々が、なんと一斉に香りを放出し始めたのだ。こういう状況は初めてのことだったので、私は祈りながら「これはすごいわぁ~・・・」と思った。「これでもか! これでもか!」という具合に、本堂がゆりの香りで一杯になってしまったのだ。雄大なお花畑で、時折心地よい春風にでも吹かれながら、温かい陽射しに包まれ、そして過去も現在も未来も、今ここにある・・・という感じがしたのだ。私はとても感激してしまった。

その時にS先生と一緒に祈ったのは、わずか30分程度だった。その後、S先生の短いご講話があったのだが・・・。そのご講話の中でS先生は「お花のいい香りがしてきましたね。」とおっしゃったのだ。私は「うん、うん、うん!」と1秒間に3回頷いた。植物は、我々人間よりも、もっと素晴らしい叡智を持っているのかもしれない。そして、S先生の祈りの力を改めて思い知った。

(完)

 カテゴリー : 植物 | 投稿日 : 2015年10月31日

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