その夢は、本当になんとも言えない奇妙なものだった。朝、目覚めると、私は直ぐに家族にその夢の話をした。川を渡ったこと、しかもお尚さんとだ。その川は、そう「三途の川」と解釈できる。その三途の川は、冥途にあると言われているあの川のことだ。冥途とは、死者が行くとされる世界のことである。しかも、私はお尚さんに付き添われて、その川を渡ってしまったのだ。
「左」は地図でいうと、西を表す。西は太陽が沈む方角だ。夢の中で、川は右から「左へ」と流れていた。そして森へと進んだその道は「左の道」だったことから、太陽が沈む西が頭をよぎった。陽が沈むとは、1日の終わりを表す。終わりとは、死や闇夜を表す。しかも、夢の中で私の身体は異常なまでに硬直していたことなどから、「これはきっと誰かが亡くなるぞ!」と思った。「誰だろう・・・」と思って、しばらく意識を集中したら、ふと分かった、「もしかしたら、あの人じゃないか・・・」と。「まさか・・・」と思った。「倒れたのはいつだったっけ?」と思い、「そもそもなんで私の夢に出てくるんだろうか・・・」とも思った。
あの人とは、2年前(2013年)の5月の終わり頃に、脳内出血で、突然、職場で倒れた私の元職場の上司のことだ。直上の上司ではないが、顔見知りだった。その後、転勤になり、時は流れ、そしていつしか年賀状だけの繋がりになっていた。最後にはもうその繋がりさえ途切れていた。その元上司が職場で倒れてから、私がその夢を見るまで、およそ10カ月が経っていた。その上司が倒れた時に、友人からその連絡が入って初めて知ったのだが、集中治療室での対応になっていたので、とても面会できる状態ではなかった。それ以降、連絡はなかったので、気にかけてはいたが、それっきりになっていた。
しかし、案の定だった。私がその夢を見たわずか1日か2日後に、その上司は完全復帰を果たすことなく、そのまま亡くなったのだ。訃報のその知らせを受けた時、私は本当に愕然とした、「こんなことって、あるんだ~・・・」と。私は、ただただ驚くばかりだった。死後の幸福を祈った。
(完)